という訳で, かぐや様は告らせたい 195話 の感想(かぐ活)です。
うむ。
なかなか今回は読み手が試されるエピソードだな。
桜舞い散る卒業式,ついにやってきた告白のお返事において子安つばめが出した結論は「お付き合いできない」というものでした。しかしそれは石上に対する拒絶ではなく,「好きの種類が違う」からこその謝絶だったわけです。
石上のことが大切な人だからこそ,恋人にはなれないけれどもこれからも良き友人でいてほしい。ある種わがままとも言えるそんな無理難題に,石上は涙をこらえて受け入れたわけです。二人の新しい関係を作り出すための第一歩を踏み出した石上の姿に,成長を感じた読者もいたはず。
今回,それを受けての後日談と相成るわけですがさてこれはどう解釈したらよいものかな。
...ん,ぽよぽよ博士か。
ふふ,なら仕方ないですね。
というわけで,石上失恋譚の後日談です。
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かぐや様は告らせたい 19 ~天才たちの恋愛頭脳戦~ (ヤングジャンプコミックス)
- 作者:赤坂 アカ
- 発売日: 2020/07/17
- メディア: コミック
石上優の失恋表現について
石上の恋は「子安つばめの無理難題」という新しい関係を築くことを約束して一つの区切りとなったわけですけれど,その後つばめ先輩を見送った後に石上が涙を流したように失恋の痛みというものはそんな簡単に処理できるものではありません。
真摯に告白して,結果を受け止めて,一しきり泣く。そうやって人は恋に区切りをつけていくものではないかと思いますけれど,さりとて失恋は失恋です。
石上にしたところで「自分を変えよう」という想いから飛び込んだ応援団における出会いから数か月。その間,自分を大きく変える出来事もあり,そのことに好きだったつばめ先輩が関わったこともあり,まさにつばめ先輩中心の生活をしてきたわけです。必死になって努力して,自分を磨き上げて。
その数か月間に燃え上がった恋心を一晩泣いてなんとかしろ,たってそうはいかないもの。石上が失恋の痛みを抱えてくることは生徒会メンバーも読者も折込済だったはず。
それがどんな風に描かれるのか,というのが客観性を持った読者の観点になるわけです。シリアスの後はコメディパートが定石の「かぐや様」だけに,多分コメディだと思っていたし,藤原千花が来るんだろうなと思っていたら来たわけけれど...。
予想外の「滑り芸」にあ,え,思ってたんと違う...となった読者もいたかもしれませんね。え,なに,反応に困る...みたいな。
日ごろ冷めた空気で突っ込みまくっていた石上が,「らしくない」ボケを意識してか無意識のうちかすら分からない,境界線上のアリアで繰り広げていくのが居たたまれない。
一見,強がって演じている自分をアピールしながら,素の感情が駄々洩れになるあたり多分本気でダメージを受けているのでしょう。それが分かるからこそ,四宮さんも白銀会長も真正面から応えるのではなく横から支える感じになっているのでしょうし。
この表現をどう見るか,読者によって違いが出るかもしれないね。
「漫画自体が完全に滑っている」と思うか。あるいは,「それほどまでに石上が傷ついて」「それを周囲が懸命に軟着陸させようと努力している」ように描かれていると解釈するのか。なまじ表現が滑りっぱなしだけに評価が分かれそうなところである。
燕の子安貝の難題は「かいなし」だったのか
とはいえ繰り返し読んでみると,これはこれ一つの「意図」を持った上での作劇なのかな,と思ったり。
別に僕は漫画技法に詳しいわけじゃないから適当に書きますけれど,多分漫画の作劇方法って多かれ少なかれ以下のような感じになるんだと思うのです。
- このお話で最も伝えたい事(オチ)を思い描く
- そこに至るまでのプロセスを考える
- これまでの描写や伏線を踏まえてストーリーを組み立てる
- 必要に応じて今後の伏線を置いておく
今回のお話で言うならば,「最も伝えたい事」は最後の白銀のセリフであるところの「その質問の答えは『解なし』だ」だったと思うのですよね。
石上優にとってこの恋はもともと手に届きそうにもない無理難題であった。そこに挑戦し,石上は目的を達せられなかった(甲斐なし)わけです。これが「竹取物語」の石上麻呂のエピソード「肝心のツバメの巣に子安貝無く(貝なし),その上高所から落ちて怪我をしてしまう(甲斐なし)」を踏まえたエピソードであったのは既に色んな所で語られたとおり。
今回の石上の恋が本当に甲斐なしだったのかそうなのかは,まだ分からない。これからの石上とつばめ先輩の関係の在り方次第では別の大切なものを手に入れる可能性もある。だからこそ白銀は現時点ではその正しさはわからない=「解なし」としたわけです。
この「貝なし」・「甲斐なし」・「解なし」という重ね合わせで〆る所こそが今回のお話のオチであり,今後を暗喩する場面だったわけで。現代文風に言えば「作者が最も言いたかったこと」と思われし箇所という部分になりけり。
それを表現するために,伊井野さんは敢えて露悪的に表現された可能性もある。実際問題,石上のことが「好きらしい」伊井野ミコからしてみれば,自分が手に入れたいものをポイと投げ捨ててしまったような印象を抱いてもおかしくないわけですからね。
今回のお話づくりはそんな逆算から生まれたエピソードであるような気がしなくもない。白銀の締めの言葉があり,伊井野ミコのつばめ先輩に対する感情表現があり,それを促すために「伊井野さんの謎掛け」が生み出される。
そしてミコちゃんの謎掛けにたどり着くために,今回の滑りまくった生徒会役員共が前半に描かれたという構図が描かれた...のかもしれない(自信なさげに)
伊井野ミコは何を思っていたのか
さて,ついでなんでその伊井野さんの件です。
藤原さんにお題を振られて「謎かけ」で答えた伊井野さんですけれど,"彼女はカノジョ"でまた何を思っていたのでしょうか。
この時「頭の中にあったワード」は子安つばめ先輩です。
なまじ石上のことが「好き」なだけに,つばめ先輩が振ったことに対する想いは複雑であったに違いない。結ばれたいけれども結ばれない自分。願われても応えないつばめ先輩。そこになぜ,という疑問が生まれ出ずるのは詮無いこと。
とはいえだ。
ちょっとこの辺は情報不足とは言え表面的な物の見方だよな...読者視点からすれば。
恋愛対象ではなかったということを「タイプではない」と捉えればそうなのかもしれないけれど。でもその解釈は,つばめ先輩にとって石上が「大切な人」であるということ,これからも石上との間で恋人ではないけれども大切な関係を築き上げていきたいということ,そういう想いを抱いている側面は受け止めていないよね。
「自分が傷つかないために周りを振り回したこと」に対する正しさを問うあたり正義マンでもある伊井野さんらしいちゃらしいんですけれど。すこし主観的感情が入り混じっている感は否めないです。
それから,少し穿ったものの見方をすれば,こうした伊井野さんの表現は石上とつばめ先輩が結ばれてほしかったであろう人(いわゆる石✗つば派)がつばめ先輩に対して抱く疑問を代弁させているようにも見えなくもなく。ま,それは憶測混じりの感想であることは認めます。
結局,こればっかりは周囲は憶測で考えるしか無いんですよね。恋愛当事者ではない者が,当事者の気持ちなんて分かるはずもないわけで。第179話のエピソードを思い出すまでもなく,こればっかりは周囲には計り知れぬところである。
今回の白銀の「解なし」という〆の言葉一つとっても,そんな周囲の気持ちなんかお構いなしに,当事者同士で物事はなるようになる....という事実を表しているような気がしますね。それと同時に,一人の先輩として友人として,将来二人が新しい関係を築けることを願っているような期待感も表しているようで。
そんなお話だったのかなと僕は思いました。まる。
余談
まあ一読者としての解釈としてはそんなところなんですが,それにしても前半きつかったね!
前半と後半の雰囲気をがらりと変えてくる赤坂画法ですから,前半は意図的にすべり芸を連発されたんでしょうけれど,なんのかんのでああいう石上はあんまり見たくなかったような...(笑) 完全に気分は藤原千花にシンクロでしたよ。
そんな中「二段階左折 」という概念的ボケを繰り出してきた四宮さん,痛みに耐えてよく頑張った!感動した!でしたよ...。あと「会長好き」もさり気なくポイント高い。
閑話休題。
最後に伊井野さんについて触れておきたい。ここまで読者側は伊井野ミコの「好き」は「恋する好き」って解釈している人が多そうですけれど(僕もそう),それって本当だろうか。
いや,確かに伊井野さんの好きは「恋する好き」にも見える。でも本当にそうなのかな。つばめ先輩にとって「好きの種類が違った」ように,伊井野さんにとってもその好きは「恋としての好きじゃない」かもしれないよね。どうでしょうか。
もともと伊井野さんは他者依存症である。正義マンな家庭に育てられ,謎のDV属性を身に着けてきた人である。自己肯定感が低く,他者からの承認欲求がとてつもなく高い。そんな中,石上に文化祭で思いもかけず優しくされて意識し,クリスマス以降は至れり尽くせりの世話人として常に側で奉公させてきたことが彼女の承認欲求を満たしてきた。
石上がつばめ先輩に向きっぱなしであることに対する切なさも,石上が自分の行為を喜んでくれた時のバレンタインの喜びようも,そんな彼女の承認欲求(家族愛と言ってもいいが)によるものだとしたら,それは一体全体「恋」なのかしらん。
事実,伊井野さん自身も「好きなのかどうかわからない」と言っている(第180話)。その胸の痛みはきっと恋なんだろうけれど,本人は本当にそれを恋と自認しているかどうかというとあやふやである。
そんな伊井野さんの「好き」の種類についてもまた,今後の波乱要素になりそうな気がしなくもならない。というわけで,まる。
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