現実逃避 - hatena

「かぐや様は告らせたい」の感想を書いている漫画感想ブログ

『鬼滅の刃』 176話 侍 感想 : 継国厳勝がなりたかったもの

ついに首を斬られた上弦の壱・黒死牟

 

力なき者が刃と突き立て,人間が血鬼術を使い,血を失いながらもなお戦いを挑み,人にして鬼のような速度で成長してくる「日の呼吸」の使いですらない者たち。

「始祖」とも言うべき彼らの技を語り継ぎ,心を鍛え,身体を練り上げて来たこの者たちがそんな「始まりの呼吸の剣士」の一人である継国厳勝の成れの果て・黒死牟の首を斬る。因果を感じますね。 

 

 

 

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厳勝が「負けたくなかったもの」

これまでのところ厳勝が「鬼」になった理由は明確に描かれていません。過去の感想において僕は強さを追い求めるがゆえ,限りある寿命を更に縮めた「痣者」の厳勝は鬼となることを選んだのだろう...と想像したわけですが。

 

そんな強さを求めた厳勝が「勝ちたかった者」は弟の縁壱である。刃を赤く染める特別な「日の呼吸」の剣士として剣技を極め,かつ痣者なのに二十五を超えてなお生き延びることができた。そこに嫉妬していたわけです。

 

結局鬼になっても縁壱を超えることはできず,人であるがゆえの「寿命」という決着によって永遠の敗北を喫することになった元・月の呼吸の剣士,黒死牟。すでに勝ちたかった相手はいないのに,鬼として生きつづけていたのは今更「縁壱」以下の他の者に負けるわけにはいかないという強迫観念,思い込みによるものです。

 

 

思い出の中の縁壱と厳勝。

強さとは個人に属するものであり,それを後世に伝えられないことに焦りを感じる厳勝。強さとは人によって伝えられていくものであり,個人に属するものではないとする縁壱。真逆の二人故に,分かりあえなかった

 

 

厳勝の価値観からすれば,心が浮くどころではない。自分が残した遺伝子の末には自らの技量ほどの呼吸法を伝えきれていない。初戦強さとは自分という「個体」に属すると考えたことも,厳勝が鬼となり黒死牟となったのでしょう。

 

一方の縁壱はそんな「ふわっとした」概念そのままに,歳が死をもたらすその瞬間まで生きた。その遺伝子が伝わったのかどうかもわからない。その呼吸の技法が伝わったのかもわからない。

しかしこうやって今,鬼殺隊に技が派生していく形で受け継がれたのを目の当たりにし,その首を斬り落とされたことで縁壱の言っていたとおりになったことを身を持って知らされる。

 

自らの遺伝子の末裔であるところの無一郎は胴を斬られようとも自らに突き立てた刀を離そうとせず。弱者と切り捨てたはずの鬼喰い・玄弥が人でありながら血鬼術まで使い自らを拘束し。切り刻んでやっても何度も止血して,さらに自分に切りかかってくる風柱・実弥に畏れを感じ。行冥は人でありながら鬼に匹敵する成長速度で驚異の動きを続けてくる。

 

 

日の呼吸ですら無い,その派生の呼吸法を使うそのものたちが「刀を赤く染めて」自らの首を,身体を切り刻んでくる。有り得べからぬ事態...自らが勝てなかった縁壱ではない者が縁壱と同じような技を振る舞う。縁壱が残した言葉通りの事態に直面した時,黒死牟が考えたのは「縁壱以外のものに負けるわけにはいかない」ということだけではあるまい。

 

きっと,ここでこの者たちに負けたら,「個しての強さ」で縁壱を上回れなかっただけではない。縁壱の言葉通り「強さとは人に受け継がれて更に上回っていくもの」という価値観そのものに負けたことになる。単純な勝負で縁壱に勝てなかったというだけではなく,自らの信念そのもので二度も縁壱に負けることになる。

 

 

だから元・継国厳勝こと黒死牟は言う。

 

己が負けることなど考えただけで腸が煮え返る

俺はもう二度と敗北しない

 

と。

縁壱に二度も負けたくない。それが彼が生き永らえていた理由なのかもしれないね。

 

 

生への執着がもたらすもの

「二度と敗北できぬ」という強い想い。その思いが首を斬られてなお黒死牟を生に執着させる。

 

ふむ。

猗窩座が到達しそうになってたどり着けなかった領域...。あれは思い出の中の恋雪との記憶と,炭治郎の偶然の「げんこつ」による叱責が重なって「さらなる高みへの道」を自ら閉ざしたわけですが...。

 

しかし黒死牟さんは違います。

縁壱に勝てなかった以上もはやそれ以外の者に敗北するわけには行かない,という強烈な意思があるわけです。故に首の再生を試みる。猗窩座がたどり着けなかった高みに到達してでも,生に執着する。

 

その強烈な意志が身体の崩壊を食い止め,さらに頭の再生をも図る。なるほど...。これが頸を切っても崩れ落ちない仕組みか。鬼舞辻無惨も首を切っても再生し,死にませんでしたがその原理はどうやら「生に対する執着」「何がなんでも生き延びる」という強い意志っぽいな。

 

 

考えてみれば無惨はそんな男である。

太陽の陽を避け,元人間でありながら人間を殺めて食べることに何の躊躇もしない。己の生にのみ執着する。太陽のもとに出られない不自由な身体,もし損な生き方をやめたければ最初から「陽の下に出て」自ら消滅させれば良いだけである。でもそれをしない。

 

恐らくそれは無惨にとっての「敗北」。何の因果か不自由な体となり,強大な力を得たものの太陽の下では暮らせない。やつがそこにこだわるのは「いつかまた太陽の光を浴びながら健康な体で過ごしたい」という生への執着であろう。故に青い彼岸花を探し,太陽を克服した禰豆子を狙うのでしょうから。

 

 

閑話休題。

話を黒死牟に戻します。「もう敗北できない」という強い意志の下,黒死牟さんはついに頸の切断からの死を克服する。

 

禍々しい異形のその姿はまさに「鬼」としかいいようがない。

醜く歪んだいくつもの触手。不揃いの角。全身に現れた痣は,これまでの黒死牟とは比較にならない強さを得たことを意味する。

 

 

「無惨ほどの速さで再生していない」という悲鳴嶋さん言葉はそのとおりなんでしょうけれど,あの時延々と岩柱さんが無惨の頸をきりまくれたのは珠世の血鬼術によって固定されていたからです。再生した瞬間,二人の柱の剣がかわされたことから判断して,もはやその剣が届くとも思えない。

 

無一郎は胴を切断。玄弥の血鬼術も消えた。風柱,岩柱はなお攻撃を加えんとするの者,彼我の差は歴然である。頸の斬首という死をも克服した黒死牟は,もはや無惨を除いて最強と言っても良い存在です。

 

 

継国厳勝が「なりたかったもの」

猗窩座がたどり着かなかった「鬼として強さ」の高みにたどり着いた黒死牟。

 

かつて猗窩座は記憶の中の「恋雪と師匠」の思い出と,炭治郎が「攻撃しない」ことによってその道を閉ざしました。対して黒死牟は彼の中の「縁壱」との思い出がさらなる高みに登ってでも勝利に執着する。

 

 

であるならば,鬼殺隊としては黒死牟を倒しにかかるしか無い。最後まで諦めず,その刀を振るう行冥と実弥は,炭治郎とは異なり「攻撃する」ことを選択する。黒死牟の中の戦いの炎が消えないために...。

 

その刃が転機をもたらすとは,これは上手いですね。

炭治郎と実弥たち。対比的な行動だったのに,もたらしたものは同じ。刃に映る異形のその姿に衝撃を受ける。刹那,再び縁壱との思い出が蘇る。

 

 

”自分がなりたかったものは何か?”

 

思い出の中の幼き弟・縁壱の言葉が蘇る。

 

 

 

兄上の夢はこの国で一番強いになることですか?

俺も兄上のようになりたいです。

俺は この国で二番目に強い侍になります

 

 

「侍」

自分がなりたかったもの。この国で一番強い侍になりたかった。そんな埋もれていた記憶を幼き縁壱が思い出させる。 

 

ふむ。

厳勝が最強にこだわった理由,自らより優れた弟に嫉妬した理由,それは「この国で一番強い侍」となるためだったのか...。剣を極め,自らの呼吸を継ぐものも無く,二十五でその夢もかなわないまま死ぬ運命。そんな運命に抗うために鬼となる選択をしたものの,いつしか「この国で一番強い侍」から抜け落ちてしまったもの

 

「侍」

 

ついに頸の切断をも克服し,まぎれもなく最強に近づいた瞬間突きつけられた事実。醜い異形の鬼となった姿を初めて見て気付かされた自分が捨ててしまったもの。自分からこぼれ落ちてしまった夢

 

 

 

強さと生に対する強烈な意思が揺らいだ時,鬼殺の刃で斬られた自らの頸と身体は再び崩壊する。それはそうである。強烈な生への執着のみがその体を維持するからである。その自分の姿の醜さに,「侍ではないもの」である自分を見た時に,その信念が揺らぐのは当然というもの。

 

そして頸を落とされ,身体を刻まれ,崩壊が進んでもなお負けを認められぬ醜さ。その心の醜さに,往生際の悪さに再び黒死牟は「侍ではない自分」を思い知らされる。侍にとって重要なのはその生き様である。どのように生を駆け抜けたか。どのように自らの「死に様」を描けたか。そこが侍の本懐であろう。

 

 

にもかかわらず,敗北を認められない時分はただ「生き恥」を晒しているだけである。

 

赤い月の輝く夜に,最後に相見えた弟・縁壱が「おいたわしや兄上」と泣いた理由。それはこの国で一番強い侍になる夢を持ちながら,侍であることを捨ててしまった兄に対する想い。自らが目指した強き侍としての兄の姿がそこになかったからこそ,縁壱はそれを悲しんだのでしょう。

 

弟の最後の言葉を思い出しながら,本当に自分がなりたかったものを思い出す厳勝。そんな厳勝がなりたかったものは,「この国で一番強い侍」となったかつての縁壱。自分がなりたかったものになれた,弟のその姿だった。

 

 

縁壱

お前になりたかったのだ

 

 

という言葉とともに崩れ落ちた瞬間,その「生き恥」を悔いて負けを認めることができた。そんな風に感じました,まる。

 

余談

結局,不死川兄弟の愛情ドラマが黒死牟の記憶を呼び起こす...とかいう僕の予想は大外れでしたね。このぉ,ワニ先生め...(冗談です)

 

 

さて,黒死牟の自壊という形で多分決着...だとは思うのですが,鬼殺隊の方もただでは済んでいない。黒死牟のモノローグの形をとっていますが,無一郎の死は恐らく不可避でしょう。そして玄弥も血鬼術が消えていることから,ほぼ力尽きたものと思われます。ほとんど鬼と化していますからギリギリ生きているかもしれませんが。

 

 

自らの命を諦めても,鬼殺隊として成すべきことをなす。たとえ叶わぬ弱きものでも,ギリギリの戦いの中でその力が強者を崩すきっかけになる。炭治郎,無一郎の言っていたことは成し遂げることができました。

 

個としての無一郎・玄弥はもはや助からないかもしれない。そのことは行冥も「命を無駄にするな」という形で示唆していますし,それを理解した実弥もまた涙を流しながら彼らの命に報いる働きをしました。
その果に上限の壱・黒死牟を崩壊に至らしめたのですから,二人はまさに縁壱のいうところの個ではなく鬼を倒さんとする「志と技を継ぐ者たち」という形をとったことになりますね。

 

 

この後ですが今度は鬼殺隊の方の話になりますでしょうか。

無一郎は鬼になってまで生に執着するはずもなく,鬼殺隊となったその時から天命に従う意志でしょう。ここで継国の血脈は絶えることになるのかもしれませんが,それもまた縁壱の言うところの「後の者についでいく」形で技と志は,受け継がれていきます。その戦いもここで無惨を打ち取り終わるならば,本望でしょう。

 

ただ無一郎がもう一つできることはある。

 

 

それは刀が赤くなり,黒死牟に多大なダメージを与えたことである。黒死牟の再崩壊も無一郎のその攻撃した部分から始まっていますし,このことは対無惨戦で大きな意味を持つに違いない。今際の際に,彼が気づいたことを言語化して行冥らに伝えるというのはありそうです。

 

そして玄弥

おそらくは瀕死かと思われます。鬼喰いである玄弥は黒死牟の身体を食べれば再び蘇るかもしれません。もはや食べる口も消化する器官もないので難しいかもしれませんが。あるいは兄・実弥の特殊な稀血をもらえば,身体ぐらいは復活できるかもしれません。

 

もしわずかでも助かる可能性があるならば,実弥は玄弥を救おうとするでしょう。それは当然,兄が弟を想う...人であるならば当然の気持ちです。人一倍,弟・玄弥の人として幸せを願っていた実弥です。玄弥がどう言おうとそうしたいに違いない。

 

 

 

 

もちろん玄弥がその選択を受入れ,鬼として生きながら得た後に人に戻ることを試みるのかもしれない。でもなんとなくですが,そうはならない気がします。

人は限りある命を生き,その役目を果たす。残された役目は後の者がその血筋の関係性は無く「目的を持つ人間たちによって」継がれていく。その文脈ならば,個としての玄弥は延命を求めない気がします。

 

おそらく黒死牟の刃をたべ,血鬼術まで使った時,ほとんど玄弥は鬼とかしていたはずです。鬼舞辻無惨の意識もこれまで以上に入ってきていたのでしょう。であるならば,次に鬼として復活したならばもはや無惨の支配下に落ちてしまうかもしれない。そうした懸念を有しているかもしれません。

 

であるならば,実弥がどう思おうとも「自分は人として死にたい」こと,「自分の分まで兄に幸せになってほしい」と願うこと。そのことを玄弥は実弥に伝えてその生涯を閉じるのではないでしょうか。

 

そしてもう一つ,無惨と意識共有したことはこの後の戦いにとって重要なポイントとなるのだと思います。その知識を実弥らに伝えることによって,「全ての鬼を滅する」という鬼殺隊の,長年に渡り受け継がれてきた志を成就するヒントにする。それもまた,呼吸が使えなかった玄弥もまた鬼殺隊の一員だったということの証になると想うのです。

 

再度まる

 

 

 

   

 

 

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*画像は週刊少年ジャンプ2019年44号 『鬼滅の刃』 第176話 ,同167話より引用しました。

画像引用は中止しました。