現実逃避

現実逃避 - hatena

「かぐや様は告らせたい」の感想を書いている漫画感想ブログ

『鬼滅の刃』 178話 手を伸ばしても手を伸ばしても 感想 : 継国厳勝が本当に欲しかったもの

 

前回に引き続き回想編

縁壱に対して激しく嫉妬した厳勝。理想に近しい存在がいて,それが自分には実現できない。「神に愛されなかった者」の悲哀が回想からにじみ出てくる。

 

 

自分が到達できない極み。縁壱は厳勝にとって到達できないゴールみたいなものである。努力では決して超えられない壁。天与の才に恵まれし者と凡庸な才能しかもたなかった者。

 

自分が目指す「理想の強さ」がそこにあるのにそこに達することもできない。例えるなら自分が欲しいけれども手に入れることができないおもちゃを,悪気なく見せながら遊んでいる友人...。それは持てる者が行使してしかるべきことですけれど,それは持たざる者にとって灼熱の嫉妬の炎で身を焼き尽くさせる。

 

それが分かっているからこそ,縁壱は自ら姿を隠したわけですね。自身が存在すること自体が兄の平穏の妨害になる。子ども心に兄が求めているもの,それを自分が与えられないことを理解していたからこその別離だったというわけか...。なるほど。

 

 

 

 

 

 

 

最新コミック

鬼滅の刃 17 (ジャンプコミックス)

鬼滅の刃 17 (ジャンプコミックス)

 
鬼滅の刃 17 (ジャンプコミックスDIGITAL)

鬼滅の刃 17 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

継国厳勝は縁壱に何を求めたのか

 

そんなつかの間の安息の日は,鬼と縁壱と再会することで崩れることになる。「望まぬ邂逅」と厳勝は振り返っているけれど,ある意味お気の毒ではある。存在そのものが自らの心の平安を脅かすのですから。

 

だがどうなんでしょうね。

 

  • 「日本一の侍」になりたいという,強さを求めるのは"厳勝"である。
  • 「鬼狩り」の強さと剣技を身に着けたいと思ったのも"厳勝"である。
  • 「妻子」を捨て,「人間であること」を捨てて強さを求めたのも"厳勝"である。

 

彼の心の平安を脅かす根源,それは厳勝自身に根差している

縁壱が兄の平穏を願い距離を取って出て行ったことも,連れ戻されないようにどこぞへ出奔したことも。何かの因果で産屋敷の者と邂逅し「鬼狩り」になっていたことも。縁壱自身は兄と積極的に関わらず,別の人生を送っていたわけです。

 

それは実弥が玄弥に抱いていた感情と少し違うけれど,兄には鬼のような存在と積極的に関わる必要はないという想いはあったでしょう。事実,厳勝は再び縁壱と別れ,もとのゆっくりとした時の中で家族と過ごすこともできたわけです。 

 

 

たまたま鬼と邂逅した時ですら,縁壱から声をかけたわけでもなかった。その力を手に入れたいと願ったのは"厳勝"である。結果,厳勝は「自らを思い悩ませる」縁壱の側にいてイッライラ感を味わい続けることになったわけだ...。なんだそれ...マゾか(違)

 

 

「始まりの呼吸の剣士」の業 

 

冗談はさておき。

縁壱はそれを拒否して平穏に生きるように伝えることもできた。にもかかわらず,それを受け入れた。そこが不死川兄弟との違いですよね。兄には鬼のようなものと関わらせない。自分が陰ながら鬼から兄を守るという選択はしなかったわけだ。

 

その理由らしいもの考えられます。

 

  1. 慕う兄が鬼狩りへの道を願うのであればその願いをかなえてあげたいという想いがあった
  2. 純粋に鬼狩りの戦力が増えることは望ましかった

 

もともと厳勝には日本一の侍になりたいという願いがある。それは自らが消える事でかりそめの実現ができていたのかもしれないけれど,いま兄は鬼狩りの道を願っているのであれば,それを叶えるのに弟としてやぶさかではない。まあそんな単純に考えても不思議ではないね。

 

 

加えて,縁壱は「誰にでも剣技や呼吸を教える」とありますから,兄だけ除外する理由もなかったのでしょう。それはたぶん完全なる善意である。もとより鬼舞辻無惨を倒すためには戦力が必要である。剣士としてそれなりの腕を見込める厳勝が鬼狩りになってくれるのであれば「渡りに船」だったのかもしれない。

 

 縁壱とすれば「日の呼吸」が受け継がれなくても,それぞれにあった得意な呼吸を教えることで戦力となればいいという考えだったのかもしれない。技も,呼吸も,後世の者がそれを進化させいつか無惨を倒す。組織として勝利できれば,個々はどうでも良い。

 

縁壱にとっては「個人」はどうでもよかったのですが,他人は...厳勝は違う。そこに縁壱の業を感じなくもないですね。個人としての能力を極め,縁壱をも上回りたい厳勝と,鬼狩りとしての組織力を高め無惨を打ち払いたい縁壱。

 

 

同床異夢。

技や呼吸は同じかその派生にせよ,目的が違う。縁壱は結果(鬼を狩る)が同じならそれでいいと思ったのでしょうが,厳勝はそうではなかった。それを理解していたのか,いなかったのか...

 

厳勝が鬼になった理由

目的が違うのですから,二人の道が分かれてしまうのは時間の問題だったのかもしれない。

 

鍛錬を続けても身に着けることができない「日の呼吸」。自らが得たのはその派生に過ぎない。そのうち痣者がどんどんと死を迎えていき,痣は一時的な効果上昇しかなく寿命の前借りに過ぎないことを知る。

 才能もなく,努力する時間もない。あるのはただ,到達しない見果てぬ目標のみ。そんな中,無惨の誘惑が継国厳勝を誘うことになる...。

 

 

なるほど。

これが「ビジネスパートナー」ということか。この取引には双方にメリットがある。厳勝には永遠に強さを希求する時間が与えられる。無惨には仇敵の力を削ぎ,その技や特徴を分析することも可能になる。

 

しかしまあ,この一事をもってしてもなぜ厳勝が縁壱の域に到達できなかったか,分かる気がしますね。

 

徹頭徹尾,厳勝は己のことしか考えていない。自らを高める事。縁壱を追い抜くこと。その目的・目標は自らが最強となることであり,強さそのものが目的である。いつか縁壱を超す,それだけが目的である。

 

一方の縁壱は鬼狩りとして無惨を倒すことを目的にしている。極められた才能はあるものの,そこはたぶん本質ではないのである。たぐいまれなる素質を持ちつつも剣が嫌いだった縁壱。それがこうして成長し鬼狩りとして戦い続けるのは,人ではなく鬼を切るため,すべての鬼を倒し人々の安寧をもたらすためである。

 

目指すもののスケールが全く異なる。己のためか。人のためか。抱く目標のスケールが圧倒的に違うからこそ到達できない境地。結局,厳勝は縁壱の「力」の部分しか見ていなかった。そこにしか関心が無かったから。それでは縁壱を超えることなどできるはずもない。

 

継国縁壱という男は何を成し遂げたのか

 

縁壱は...天与の才に恵まれ,大いなる大志を持ち,鬼狩りにおいても厳勝や鬼舞辻無惨ですらも「傷一つつけることが叶わなかった」という。しかしどうだろうか。縁壱自身はそれに満足していただろうか。

 

 

である。

自分は何もなしえなかった...そう炭治郎の祖先である炭一に語っていたのは本心であろう。

 

 

天与の剣の才能に恵まれた。たくさんの鬼を狩り,鬼舞辻無惨の首すら斬りかけた。誰一人として傷つけられた者はなく,武芸において紛れもなく「日本一の侍」だった。しかしどうか。彼が抱いていた大いなる目標・目的は達せられたのか。である。

 

鬼舞辻無惨を倒すことも叶わず...慕っていた兄はこともあろうにか鬼になってしまった。その原因は偏に自分という存在そのものにある。

 

兄を傷つけないようにと慮って姿を消した幼少期。再会し,再び人生を交わえることとなるが,結局兄は「なんのために鬼を切るのか」を理解していなかった。ただ己を超えるためだけにその剣技を真似ていただけだった。

鬼舞辻無惨を倒すという目的も理解させられず,その価値観を共有して戦うこともできなかった自分。無惨を取り逃がし,兄が鬼となった時,どれだけの虚無感が縁壱を襲ったか想像に難くない。

 

自分は何も成し遂げられなかった

 

そう感じるのも無理はない。

残りの人生を,道を誤った兄の引導を渡すために生き,それも成し遂げられなかった縁壱。無残も倒せなかった。兄を守ることもできなかった

 

 

兄・厳勝が弟・縁壱を「理さえ超越した存在」「寿命で死亡し勝ち逃げ」と言い,「何も手に入れることができなかった」と嘆いては何者にもなれなかった自分を嘆いていたけれども,縁壱だだってその実何一つ成し遂げられていない

 

一個人としての縁壱は兄一人救うことができなかった。守るべきものを守れなかった。自分を超えるという歪んだ欲望にとらわれさせてしまったことも,そのために志すらない鬼に堕してしまったことも,そんな鬼である兄を自ら討って開放してあげることもできなかった。

 

厳勝が何者にもなれなかったとするならば,縁壱もまた厳勝の弟になれなかったのである。何一つ成し遂げられなかった自分。一見勝者にみえる縁壱ですが,ほんとうの意味では彼もまた敗北者だったのかもしれない。

 

継国兄弟は最後に何を想ったのか

何も成し遂げることができなかった者同士の二人は最後にどう想っていたのか。

 



最後の勝負は縁壱の寿命死で終わりました。そのことが厳勝に「永遠の敗北」を植え付けたわけです。

 

そんな縁壱を厳勝はぶった切る。もはや動くことも叶わぬ身体を切ることで憎しみをぶつけて。これも彼の呪縛を増しただけですよね。生きているうちは決して傷つけることができなかったと言う事実を強調し,己が行為の矮小さ,決して縁壱を超えられなかった証拠にすぎない。

 

そんな敗北の強調のなかで残ったのはかつて自分が縁壱に与えた笛。こぼれ落ちる笛をも叩き割りながら,かつて弟が自分に向けた兄を慕う姿を思いだす。

黒死牟・厳勝は何を思って泣いたのか。時分がこだわり続けた弟を上回りたいという思い。それが決して叶わぬと決まった瞬間,幼少期の出来事を思い出したのは,相手の強さだけを追い,相手の思いを受け止めなかった自分に対する後悔の念だったのだろか。

 

無限の生き恥をさらしながらも結局その笛を持ち続けたのも,すべてを忘れながらもなお鮮明に縁壱の姿を覚えているのも。鬼となった厳勝がもう二度と見ることができない太陽に比喩されるように,絶対に手が届かなかった相手だからこそ焦がれるように追い求めたのか。

 

 

かつて厳勝が受け止められなかった兄弟愛。崩れ落ちた身体の上にそっと残った「笛」を見るに,結局のところ厳勝が求めていたのは彼が切り捨ててしまった兄弟愛だったのかもしれないな,と思ったり。まる。

 

 

 

余談

 

全てを捨てて何もなし得なかった厳勝。全てを持ちながら何もなし得なかった縁壱。二人の兄弟の運命の悲しさを感じつつ,それでも違いがある。一人の弟として縁壱は兄を救えなかったかもしれないけれど,鬼殺と言う観点で言えば後世の者は着実にその呼吸法を伸ばし,見事上弦の鬼をも討滅している。無残まであと一歩である。

 

個としての縁壱ではなく,始まりの呼吸の剣士としての縁壱を考えてみればその志は生き続けている。その意味では縁壱がやってきたことは無駄じゃなかったし,成し遂げたものがあったといえるのでしょう。

 

 

こぼれ話。

厳勝が崩れ落ちる中「日の呼吸の型を知る剣士も無惨と黒死牟が徹底して殺し尽くした」といっていました。おや?

 

「誰一人として縁壱と同じようにできない」わけですけれど,日の呼吸の継承者というか,型を知るものはいたのか。あくまで型は継がれたけれどもそれだけだったということなのかしらん。そいつらも結局殺されていますしね...。

 

そんな中,「ヒノカミ神楽」と言う形で日の呼吸を継ぐことになった竈門家は無惨らの目を逃れて結果的に日の呼吸の型が継がれていた。今の鬼殺隊に「月の呼吸」が知られていなかったのとは対照的ですね。

 

ここまで厳勝からの回想ばかりで縁壱視点の話がありませんが,それは竈門炭治郎から語られることになるんですかね。炎の柱が残した記録を読んでいますし...。縁壱には縁壱なりに思うところがあったはず。その型がヒノカミ神楽と言う形で継承されたことも含めて。

 

流れ的には一旦,現場に戻り不死川兄弟の話に入るかもしれませんが,いずれは語られなかった縁壱からの思いが再現されると良いなあと思ったり。再度まる

 

 

 

 

   

 

 

最新コミックなど

鬼滅の刃 17 (ジャンプコミックス)

鬼滅の刃 17 (ジャンプコミックス)

 

 


画像は週刊少年ジャンプ2019年46号 『鬼滅の刃』 第178話, 同99話 より引用しました。

引用は中止しました。