現実逃避

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「かぐや様は告らせたい」の感想を書いている漫画感想ブログ

『鬼滅の刃』 179話 兄を想い弟を想い 感想 : 3つの兄弟の想いと対比

崩れ落ちる伸ばした手。上弦の壱こと黒死牟さん...もとい継国厳勝の最後である。

 

 

最後に「縁壱になりたかった」と想いを残し,その姿に縋るような伸ばされた手は届くこともなく崩れ落ちていく。その強さに憧れたからこそ届かぬその手に憎しみがこもる。まさに愛憎相半ばといった歪んだ感情が見て取れますね。

 

今回はそんな厳勝の最後からの,時透兄弟,不死川兄弟の物語です。

 

 

 

 

 

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大きすぎた犠牲

さて厳勝の過去回想によって中断していた「その後」の話。焦点はやはり不死川玄弥と時透無一郎の安否です。

 

その玄弥はすでに死期を悟り,兄を,時透を自分以外の者の安否を気遣っています。常に己ばかり考えてきた厳勝とは対比的ですね。

そんな玄弥に対して兄の無事を伝えつつも,時透くんの安否については言葉を濁して伝えない優しさを悲鳴嶼さん。そうだよね...事実を伝えるのが常に優しいとは限らないからね。鬼殺隊員いろいろだけれど,多くの者が己ではなく家族を,己ではなく他者を気遣っている。黒死牟殿との対比が際立ちます。

 

ここで玄弥の隣に実弥を横たえた時,ちょっとドキドキしたんですけれどね。ぼくはまだ悲鳴嶼さんほど人間が出来ていなかった。ここで稀血にトチ狂ってしまう展開,さすがにあるわけ無いんだよなあ...。描きたいのは「兄弟の想い」なんだもの。厳勝との対比であるからこそ,兄を犠牲にする弟なんて姿は絶対に描かないわけです。もうちょっとワニ先生を信じなくっちゃいけないな...(え)

 

 

これな。

生きている実弥を見て一言目が「生きてい...る...」「良かっ...た...」ですよ。これが厳勝ですと「なんで生きている」と死を前提に語った上で,死んでいたら良かったのにという想いがにじみ出ていましたからね。そんな対比がとっても寂しく感じます。

 

時透兄弟の想い

その時透くんですが,事切れていた。

 

ああ...分かっていたけれど残酷な事実を突きつけられる。腕を切られ,足を斬られ,胴を斬られてなお戦い続けた無一郎。全力の力が出せる状態ではなかったけれども,戦局を変える「弱者の一撃」を貫いた二人がいたからこそ今がある。悲鳴嶼さんの感謝の気持ちは読者の気持ちそのままである。

 

言葉尽きる悲鳴嶼さんの想いはよく分かる。鬼狩りとなった以上いつでも死ぬ覚悟はできているけれども,齢14で身体をボロボロに斬られならなお太刀を離さず勝利に貢献した獅子奮迅の活躍。感謝と尊敬という言葉では言い表せないくらいの思いと,このような若き人が先に行くことの無念さが伝わってくる。

 

 

「必ず無惨を倒して其方へ行く 安心して眠れ」

 

という送り言葉からは,無一郎を失った悲しみと,鬼に対する激しい怒りと,自分の命をかけて無惨を倒すと言う意気込みが感じられます。

 

そしてこの描写がとってもいいんだ...。

悲鳴嶼さんがそっと時透の瞼を閉じた時,戦士としての時透無一郎はその生涯を閉じる。次の瞬間,痣は消え,剣士の装束も消え,幼き頃別れた兄と再会する。かつて樵夫をしていた家族たちが住んでいた森のように銀杏が舞いながら。第119話,回想の中の兄・有一郎とのシーンとつながっているんだよね...

 

 

兄・有一郎が涙ながらに「こっちに来るな 戻れ」という想い。この彼岸において自分の所に来るということは死を意味する。

かつて鬼に襲われ,無一郎に対する本心を吐露したときの気持ちと同様に,兄・有一郎の思いは一緒である。生きていてほしい。幸せでい続けて欲しい。だからこそ頑張った結果としての死を褒めるのではなく,弟の選択と行動を悔いている。

 

しかし無一郎は知っている。自分は精一杯頑張り抜き,果たすべき役割を果たしたことを。死を後悔しないはずもないけれど,兄と別れた3年間にやり遂げたこと,其の3年間に幸せと思えることが数え切れないほどあったこと。何からも逃げず,目をそらさず,仲間のために命をかけたこと。

 

そのことを兄である有一郎からは否定しないで欲しい

だからこそ,これまで何があっても泣かなかった時透無一郎は一瞬で涙したんだよね。「よくやった」「がんばったな」と言ってほしかった。兄だけには自分の行いを肯定してほしかった。

 

 

それが分かったからこそ有一郎は「ごめん」といったのだし,その上で

 

 

無一郎に死なないで欲しかったんだ...無一郎だけは...

 

 とその想いをこめて抱きしめる。そこにがある。

「生きていてほしかった」という想い。玄弥同様に兄弟を案ずる想いと,幸せになってほしいと言う思いがにじみ出ている。

 

これまた寿命がつきた弟を,ただの一度も傷つける事もできなかった縁壱を,動けず抵抗しようもない状態のまま刀でぶった切った厳勝との対比が際立ちます。

 

不死川兄弟の想い

時透無一郎が兄・有一郎の下へ旅立った直後に不死川実弥もまた意識を取り戻す。変わり果てた弟・玄弥に取り乱しながら...

 

兄ちゃんがどうにかしてやる,というその言葉は偽りなき真の言葉である。できる・できないではない。どうにかしてやらなきゃ。生き続けられるようにしてやらなきゃ。理屈ではなく感情から出るその言葉には「玄弥を死なせたくない」「元通りにしたい」「生きていて欲しい」という強い思いが込められています。

 

 

それに対し玄弥は詫びる。

兄の想いに叶えず迎える死についてではなく,かつて自分を守るために必死に戦ってくれた兄を責めてしまったことを。呼吸も使えず,兄を助けることもできずに迷惑をかけてしまったことを。

玄弥にとってはすでに自らの命は尽きたも同然のこと。改めて鬼を喰らい鬼として生きることも望まず。 その最後の命の灯火を,兄に対する想いを告げることに費やしたい。そんな玄弥の気持ちが溢れ出てくるのが伝わります。

 

「守って...くれて...あり...がとう...」

 

というその言葉は,鬼斬りでもなかったあの鬼に...元・母に襲われたときに自分を守ってくれたこと。責めるのではなく感謝を。 ずっと詫びて,感謝の気持ちを伝えたかったという玄弥の思いがかなった瞬間である。

 

 

だが兄・実弥にとってはそれどころではない。

兄が弟を守るのは当たり前。今,死に瀕する玄弥に対し為す術もない自分の無力さに打ちのめされているのである。守るべきものが失われる瞬間にいるのである。取り乱し,どうやったら守れるのか...生きて...生き抜いて欲しいという兄の想いは時透有一郎と全く同じです。

 

 

 

ずっと弟の幸せを願っていた兄・実弥のように。ずっと兄の幸せを願っていた弟・玄弥。死なないで欲しい。生き抜いて欲しい。その想いは同じである。

 

 

もうね。

何十回も読んでいるんですけれど,涙腺崩壊ですよ。涙ポロポロこぼしながら感想書いていますよ。痛いほど時透兄弟の想いも不死川兄弟の想いもわかるんです。玄弥の喪失に堪えきれず神に願う実弥の気持ち,痛いほど分かるんです。

 

でも無情にも玄弥は最後鬼が崩れ落ちるように実弥の腕のなかで消えていってしまう。最後まで兄に感謝の礼を言いながら.........

 

 

 

この喪失の痛みは筆舌に尽くしがたいものがあろう。

生きていてほしかったから。守ってやりたかったから。幸せになってほしかったからこそ感じる悲しみ,悔しさ,無念さである。嗚咽する不死川実弥の想いは生き抜いた者が背負わなければならない悲しみ。その想いに思わず涙せざるを得ない......

 

3つの兄弟の対比

継国兄弟と時透・不死川兄弟がとても対比的に描かれているわけですけれど,弟・縁壱については彼らと同様に兄を想っているんですよね。兄に生きて欲しい,兄の夢を実現してほしい,兄を守ってやりたい...そんな想いがあったからこそ,兄・厳勝が鬼になったときには

 

「大切なものを何一つ守れず」

「人生において為すべきことを為さなかった」 

 

と感じたのでしょうから。

 

もちろん違いもあります。兄・厳勝が弟を愛するのではなく嫉妬するような人間だったことを差し引いても,だったら陰ながら兄を守る道を選ぶべきだったという側面もある。ある意味,縁壱は兄の許容範囲を見誤ったわけで,それを「甘え」と見れなくもない。(まあ弟が兄に甘えることはあっても良いでしょうという気もしますが。)

 

しかし最大の違いはやはり兄・厳勝の姿勢でしょう。

 

 

才能に嫉妬し,己が立場が奪われることを危惧していることが縁壱に伝われば自発的に出て行く結果となる。命を救われる形で再会してみればまるで死んでいることを望むように「生きていた」ことに驚きを持って接し,再び行動するようになったはいいが決して届かないその才能の塊に焦がれ,嫉妬し,その生を羨み死を望む。

 

それは鬼となり不死の身体を手に入れてなお,三度相見えた弟が「生きていたこと」に驚き剣を交える。しかも永遠の敗北を喫する。死んだ相手を断ち切った際に切れた竹笛,それは「届かなかった目標の象徴」であっても「守るべき慈しむべき相手の思い出の品」ではない。

 

 

結局のところ,最後まで厳勝は弟を愛せなかった。愛したのはその「才能」の部分,自分が掠め取り身につけたいとおもった縁壱のいち部分である。「お前になりたかった」という前回最後の念は一見すると弟に対する憧憬にも見えるが本質はそうではない。なりたかったのは「才能のある」自分,「縁壱のようでありたかった」自分である。

 

自分,自分ーーーその考え方に弟に対する愛情や敬意は感じられない。冒頭のページで燃え尽きる差し伸べられた手,それは他人から奪うことしか考えなかった愚か者の腕だ。その意味では厳勝こと上弦の壱・黒死牟は無惨によく似ている

 

自分のことしか考えず,他人の命を顧みない。平安時代に異形の鬼となってしまったときにすら,良心の咎めるところもなく人を殺めては食らっていた。そこには他者に対する慈しみのかけらもなく,ただ有るのは自己愛のみである。

 

 

継国兄弟と時透・不死川兄弟の対比はそのまま鬼と人との対比である。守りたいものはないか。生き抜いてほしいのか。幸せになってほしいのか。その対象が自分なのか,家族や仲間といった他者なのか。そこに鬼と人との違い,双方が相容れずに戦い続けてきた理由を見出したり。

 

そんなことを感じた第178話でした。まる。

 

余談

 

そういえば,玄弥は「無惨ネット」で知り得たことを伝えませんでしたね。まあ無惨のことなんかよりも兄に対する想いを伝えるほうが遥かに重要ですからね。(もしかしたらひっそりと悲鳴嶼さんには伝えていたことに後でなるかもしれませんが)

 

もう一つ。

無一郎もまた刀が赤くなった」件について伝えないまま逝きました。しかしまあ,これこそ自ら会得して理解するものであるようにも思います。おそらく実弥と行冥は気がついたでしょうから,これは対無惨戦で出てくると思いたい。

 

 

戦いは無惨を倒すまで終わらない。

悲しみに暮れる中,そうやって前に進もうと促す岩柱さんの陰で,不死川実弥がどんな想いでそれを聴いたのか。気になるラストでした。再度まる

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

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*画像は『鬼滅の刃』 179話 , 178話,174話,168話,127話,119話より引用しました。引用は中止しました。