さよなら。
背を向けて現世から立ち去る二人。もう二人はいないんですね...。
そんな無情な事実が鴉によって鬼狩りたちに伝えられる。共に戦い,助けられ,勝利をもぎ取ってきた無一郎と玄弥の死は炭治郎の心にグッサリ突き刺ささります。鬼狩りとなった以上,死と隣り合わせは覚悟のこととはいえ,きつい。
自分が生きているのはいくつかの幸運と気まぐれに過ぎないだけかもしれない。ここまでの過程でいかに努力しようとも,どんなに心と技を磨き上げようとも何も確実なことなど一つもない。折れてきた幾つもの刃を越えて皆がそうしたように自らも進み続ける炭治郎の覚悟,無惨の頸の届くのでしょうかね。
そしてここでこんな事言うのもアレなんですが,胡蝶しのぶさんが亡くなった時も反応を見せなかった冨岡義勇さんの顔が歪んでいるように見える...気がする。それは別に義勇が忍に対して感傷がないのではなくて,義勇はまだしのぶの死と向き合える心境じゃなかったんだろうな...と思ったり。
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無惨,復活
黒死牟も散り,上弦の鬼ももはや鳴女を残すのみとなりました。鬼側の手札はほぼ尽きており,残るは無惨あるのみ。
柱稽古をはじめ,鍛え上げられてきた鬼殺隊の面々は「下弦程度」の鬼に遅れること無く一手ずつ見事に進めてきたといっていいでしょう。何百年も上弦の鬼一人倒せなかったことを考えれば,上出来すぎるといっても良い。
事実,ここまでは「出来すぎ」であろう。無惨を前に残る柱は水,風,岩,蛇,恋と五柱。加えて柱に迫らんとする勢いの日の呼吸使い竈門炭治郎もいます。それぞれ上弦を打ち破ってきた善逸,伊之助,カナヲも健在です。それぞれ満身創痍とはいえまだ刀を振るうことができる状態ですから,鱗滝さんが感じたように「今日全てが終わるかもしれない」という期待は膨らみます。ああ...でも...
時間切れだった。
無惨は復活してしまった。鬼から人に戻るでもなく,強大な力はそのままに。
ぬう...。
だいたい指揮命令どおりにしない時はろくなことがないわけですが,待機命令に従う間もなかった鬼殺隊一般剣士たちはあっという間に殺され無惨の食事となってしまいました。手負いの獣ほど強いといいますが,体力を損耗した無惨にとってただの恢復の食事となってしまった隊員たちの無情さがなんとも悲しい。
鍛え上げた剣も,背負ってきた宿命も,それぞれ無一郎や玄弥にも劣らぬ重さを抱いていた者たちだったはず。無惨の首を斬り,鬼の恐怖から世界を取り戻すために懸命にやってきたはずの者がこうして無情にも無惨の体力回復の「食事」になってしまうなんて...ワニ先生の血の色は一体何色なんだってばよ!って想いが強くなりますね(涙)
珠世の薬は本当に効かなかったのか
さて無惨復活となったということは,珠世の「人間に戻る薬」はどうだったのかということになるわけですが...
無惨がこれまで同様に鬼としての圧倒的能力を駆使している以上,現時点で効いているとは言い難い。実際のところ無惨はなんともなさそうです。
「お前...は... 今日... 必ず... 地獄に堕ち...る....」
という言葉も。無惨からしてみれば繰り返し聞かされてきた「負け犬の遠吠え」に過ぎないわけで。次から次へと殺されて食われていく鬼狩りたち,そして敢え無く命をすり潰された珠世...このままではみんな犬死にである。
んんん...。
しかしまあ読者視点からすれば「いやそうはならんだろ」という文脈ではあります。鬼滅の刃という物語の中で貫かれているのは無惨を,鬼を倒すという志の下に為されてきた行動と想いはきちんと結ばれる。そんな文脈からしてみれば,どこか「決定的な瞬間」に珠世の薬は効くのだろうという予感がします。
ただそのままですと童磨さんの時と同じになってしまうので,発現するタイミングや効果はちょっと違うのでしょうね。それがどんな風に描かれるのかはまだ想像つきませんが,無惨にとって最悪の状況で報いを受ける形になるに想像は難くない。
そしてたくさんの可哀想な産屋敷の子どもたち。あの憐れな食料となってしまった一般隊員たちも本当に無駄死にになってしまったのか。そこも気になります。
例えば亡き胡蝶しのぶさんの献策で,隊員に大きな影響が出ない程度の微量の藤の花の毒か珠世の「人間をお似に戻す薬」を隊員に服用させていたとか,身体に塗らせていたとかいう「罠」はあったりして...。
あれだけ喰らえばそれなりの蓄積にはなるでしょうからね。まあ流石に同意もなくそんな策を使うとも思えませんし,こちらも童磨さんの時と代わり映えしなくなってしまうのでそんな単純な話にはならないかもしれませんが。
珠世のこれまでの想いがどのように通じるのか。そこもきになる第180話でした。まる。
余談
幾つか気になった点。
まずは炭治郎。今回明らかになった事実は
受け継ぐことが出来なかった者
という点ですね。なるほど...日の呼吸の型は十三あるのか。炭治郎が父から学んだのは十二である。これはなかなか興味深いね。
炭治郎の父は病弱と言えど神楽をつなぐために炭治郎に懸命に教えていた。時には看取り稽古すら授けていた。そんな父が十二の中の一つだけ教えないなんてことあるのかなあ。
もちろん,父がすべてを教える前に病気で他界した可能性はある。しかしどうなんだろうね。そんな中途半端なことが起きるだろうか。
思うに十三番目の型は自ら会得するものなのじゃないかしら。十二の型まで理解していれば,自ずとそこに気づくことで身につけられる型。そういうことなんじゃないかな。それが歴代の日の呼吸の剣士において同一の型になるのか,それぞれ違う型になるのかはわからないですけれど,おそらく戦いの中で炭治郎は十三番目の型を編み出し,無惨の頸を斬るのだろうなあ...と妄想したり。
次。
産屋敷輝利哉の指揮について。
齢八歳にして抜群の統制力と指揮ぶり,見事である。無惨の復活を完全に予見し,指示を出すところは無惨もその優秀さを認めていることから産屋敷の早熟な系譜を考えても有能といってもよいのでしょう。
しかしこれが産屋敷耀哉の命令だったらどうだったのかな,とは思わなくもない。同じ当主といえども数年に渡り指揮を採ってきた産屋敷の長と,耀哉の死の後を継いで間もない輝利哉の言葉に違いは有ったのか。どうなんでしょうね。
同じく隊員たちを「子どもたち」と想い,同じように気にかけていることは変わらないものの,どこかそこに隊員たちの受け止め方の「差」は生じていなかったのか。ちょいと気になりましたね。この後輝利哉の采配が勝利に結びつく局面が来ることを期待したい。
最後。
愈史郎のことである。
珠世によって生み出された,無惨を元としない唯一の鬼。珠世を愛し,珠世に尽くしてきた彼にとって珠世の消失は筆舌に尽くしがたい怒りと苦しみをその胸に抱かせたことでしょう。胸中察するに余りあるとはこのことである。
しかし不思議なこともある。
無惨が死ねば無惨由来の全ての鬼は死ぬ。それは産屋敷耀哉によって言明されていたわけですが,この度珠世が命を断ったにも関わらず愈史郎は死ななかった。これの意味するところはなんだろうか。考えられるのは2つ。
一つは珠世は死んでいないという説。無惨に吸収された珠世は無惨の中でまだ命は続いているならば,一応間尺は合う。愈史郎の反応と一致しないので「無い」と思いますが。
もう一つは,自らのためではなくその人自身のために生み出された鬼は,生み手の生死にかかわらず独自の生を保つことができるという可能性である。珠世が愈史郎を作った経緯はまだはっきりしませんが,その経緯が愈史郎を「救うため」だったのだとすればその出自の経緯は無惨のそれとは全く異なることになる。
どうなんでしょうね。理由はともあれ,出自の理由の違いが左右しているという説のほうが意味があるように思いますが。
しかしそうなると禰豆子はどうなるという問題がある。禰豆子は太陽の陽を克服し,他の鬼とは全く異なる鬼である。無惨由来の鬼であるにもかかわらず通常の鬼とは異なるその性質は多分に竈門家そのものの何かに関わってくるのでしょうが。
理論上は無惨が死んだ瞬間,禰豆子も死ぬ。
多分無惨自身もそれを知っているし,自らの死に直面した時に炭治郎に対してそのことを天秤にかけるような言動もきっとあるのでしょう。むろん,無惨が死んでも禰豆子は死なない可能性もありますし,それまでに珠世の薬が効いて人間に戻るという可能性もある。むしろそういう流れが自然のように思いますが,そちらはどうなるでしょうか。
先々の話になりますが,そちらも気になります。というわけで以上,再度まる。
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*画像は『鬼滅の刃』 180話 より引用しました。
引用は中止しました。