さてと。今さら感がありますが「メダリスト」Score29 公式練習の感想です。
アフタヌーン2023年1月号本日発売🗝✨
— 漫画「メダリスト」⛸🏅 (@medalist_AFT) 2022年11月25日
『メダリスト』score29 公式練習 掲載されています!青森を舞台に、いよいよ全日本ノービス開幕です⛸
単行本⑦巻は来月発売‼️#漫画メダリスト pic.twitter.com/zMTSffJz7a
いま最も熱い氷上の物語を描く漫画・メダリスト。めっちゃ面白いので次に来るマンガ大賞を機会にどんどんファンが増えてほしいところですね。個人的にはめっちゃアニメ映えする作品だと思うので,いつかアニメ化してほしいと願っていたり。
さて前回は「全日本」の舞台でついに邂逅した結束いのりちゃんと狼嵜光ちゃん。出会ったのは1年前ですが,こうしてみると面白い出会いと巡り合わせの二人です。
狼嵜さんがいのりちゃんと友達になれたのは「最初にいのりが光ちゃんのことを特別視しなかったから」であり,それがきっかけで一緒に滑る機会ができた。そこで見出した「結束いのり」の可能性に対して,ここまで光ちゃんはめっちゃ期待し楽しみにしていたんですよね。
光ちゃんにとってはスケートは全てであり現状ライバル不在と言っていいほどの孤高の存在です。そうなるように夜鷹純コーチに指導されているからですけれど,言い換えれば「ライバルの不在」ということでもある。ともに高め合い,競い合う相手としてこれまで出会ってきた選手は既に「過去のもの」なのでしょう。
そうした中めぐりあえた結束さんは,初級の段階で類まれな可能性を見出せるほどの「何か」があったんですよね。追い抜いてきた存在ではなく,自分を追い抜き脅かす可能性のある存在。そんな存在だからこそ「全日本で相まみえる」ことを願ってきたのでしょうから,こうやって実際に1年足らずでこの舞台までやってきたいのりさんにはめっちゃ期待していると思うんですよね。
そんないのりちゃんの武器は言うまでも無く「練習では降りている」4回転サルコウである。今回はそんな4回転を巡るお話だったわけですが,そんな第29話の感想です。
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Score29 公式練習
今回の「公式練習」を読んでつくづく思うのは,フィギュアスケートって本当に「総力戦」なんだなってことですね。氷上スポーツである以上,個々の技能を磨くのは当然のことながら,氷の上という何の確実性もない運も実力もある世界の中で「どう演技を構成するか」という駆け引きも勝負を左右する要素となっている。
そんな順番付けを行う競技の中で,選手の技能,体調,周囲との比較,駆け引き,そういった要素全てが絡み合う様が面白いのは中部ブロック選でも十分味わえたんですけれど,こうして全日本まで来てみると公式練習の中にもそんな駆け引きがあって面白んだな。
特に今回いのりさんは注目の選手である。
予選スコアは81.20点の13位,長野合宿にも参加できていない。にもかかわらず1年足らずでノービスAの前日本の舞台に立ち,(現時点において)狼嵜光ちゃんのトリプルアクセルをも超える4回転サルコウを降りている選手だからである。
4回転を降りられれば狼嵜選手の101.16点(名港杯)を超える点が出せる。明浦路司先生の目論見もそうですし,ライバルたちもそう想定しています。だからこそ「光ちゃんに勝てる選手なのではないか」という期待と,「本当に試合で4回転を降りられるのか」という好奇心・羨望・失敗を期待する悪意が入り乱れた眼差しを受けることになるのである。
このように,今回のお話では「女子フィギュアスケート」における4回転の持つ意味が嫌というほど強調されていて,一つの主題になっていましたね。それだけ難易度が高く,練習で降りることができても試合では成功することが難しいジャンプであると同時に,4回転に挑戦する者に対する特別視とプレッシャーがとんでもないことが描かれているわけです。
一瞬その重みに押しつぶされてしまいそうな描写からの「いのりさんの覚悟の決まった顔」と「予想通りだったね」と会話する司先生の描写がね...とってもいいんだ。
司先生は夜鷹純との会話の中で「世界一の金メダルを取ったものとそうではない者の差」を強調されている。それに対してそれを否定するだけの結果を出すことを求められている。コーチとして,まだ成長過程のいのりさんが本当に狼嵜光を上回るだけの武器と構成を作り出すことを求められている。
この
「予想通りだったね」
「はい」「覚悟していた通りです」
というのはそうした「持たざる者」が他者の過去の経験からどういうことが起きるのか想定し,事前準備してきた証なんだよね。司先生はフィギュアどころかアイスダンスの全日本ですら金メダルは取れていないし,いのりさんも全日本で飛ぶのは初めてである。未経験街道まっしぐらである。
経験が無いからこそ他者の経験から学習できる。対策も取れる。何が起こるか予測して事前に心構えを決めさせておく辺り,コーチとしての明浦路司先生がすごいことを証明しているんだよなあ...。
先制パンチの持つ意味
このプレッシャーは狼嵜選手がいつも受けている者である。圧倒的強者に対する期待と羨望,嫉妬。そういったものを受けながら彼女は軽々と飛び軽々と降りる。そうやってここまですべての大会で金メダルをとってきた。
もしいのりさんが狼嵜光を上回る選手であることを実証するのなら,同じ状況を乗り越えて金色のメダルを獲らなきゃいけない。その精神状態までいのりさんをもっていく司先生マジカッケー□×(死角なし)なわけですよ。
これはリハーサルで本番じゃない
練習で降りても本番で降りられなければ得点にはなりません。そんなことは嫌というほどわかっている。名城クラウンFSCヘッドコーチの竜宮アキラが懸念するように,練習で降りても試合では一度も降りられなかった選手もいる。
にもかかわらず,いのりさんは公式練習で4回転サルコウを飛び,氷に降りた。
これには大きな意味がある。
一つは結束いのり選手の構成とその予想点数が「高く」なったこと。結果,メダリストを目指す選手たちは否が応でも難易度の高いチャレンジングな構成を強いられることになる。
練習で失敗する選手がいたように,当日の体調や環境によって全力を出し切れない選手もいる。そういった中でライバルに難易度の高い構成を組ませることは諸刃の剣である。相手の失敗を誘えると同時に,成功すればライバルの得点を引き上げる効果もあるからである。
にもかかわらずいのりさんが4回転サルコウを降りて見せたのは,相手のミスを誘うと同時に,「敵はただ一人」と実力で相手をねじ伏せる金メダリストを目指す者としての気概の表われなのでしょう。
たぶん司先生の意図としては「相手のミスを誘う」が狙いだったのだと思いますけれど,これがどうでるか。特に気になるのはライバル・狼嵜光選手の構成ですよ。
全ての大会で金メダルを取ってきた夜鷹純に「いのりさんが4回転サルコウを降りている」という前情報は入っていた以上,当然それを上回る「策」を持ってきたはずなんですよね。その秘密が何なのか。光ちゃんの公式練習が描かれていないだけに分かりませんけれど。まとめる力でくるのか。さらなる技のバージョンアップが...例えば「4回転トウループ」などの取得があるのか。気になりますね。
そもそも「4回転サルコウならば101.16は越えられる」という見立て自体が危うくもあるんですよね。いのりさんが爆速で初級から4回転サルコウを降りるところまで来たのと同様に,相手だって当然成長しているはずなんですよ。
例えばこの後すべる鹿本すずさんの近畿ブロックの予選得点は101.23点。かつて敗れた光ちゃんの名港杯を上回ります。みんな成長しているんです。当然光ちゃんも上積みがあるはずです。本戦でみせる得点は101.16点をはるかに超える構成でしょう。
その時,いのりさんの構成は光ちゃんを越えられるものとなっているのか。司先生がどのような対策を想定しているのか。仮に4回転を降りたとして,この短期間でまとめる力まで高めることができているのか。色々心配やら期待やらあるところですが,本番が楽しみになってきましたね。
というわけで今回の漫画メダリスト Score 29 感想はまる。
余談:
そもそも試合で4回転降りられるのかという点も重要なのですが,この点は五分五分だと思っています。実際の女子フィギュアにおいても島田真央選手が4回転を試合で降りていますし,漫画内で成功描写を描いても「荒唐無稽」にはならないでしょう。
4回転降りて金メダルを取らせるのが司先生の今回の仕事であり,竜宮アキラコーチのように試合での成功を祈る描写もあり...。そんなことを考えると「成功してほしい」とは思います。一方で司先生の意気込みがアイスダンスで失敗した時と被るのも気になります。
成功してもしなくても漫画的にはどちらもあり得るのかな....と現段階では思っています。
【参考】全日本選手権出場選手地区予選ランキング
見出しは以下の通り
ランキング・選手名・地区予選点数・クラブ・指導者・(他のコーチ)
- WD・狼嵜光・101.16点・名港ウインドFSC ・夜鷹 純 (鴗鳥慎一郎,雉多輝也)
- 鹿本すず・101.23点・蓮華茶FSC ・亀金谷澄覚 (蛇崩 遊大,伊文里青紫,家森朝緑)
- 亜昼美玖 ・91.10点 ・ NSUプラントFSC ・ 鴨川洸平 (白鳥ジュナ)
- 胡荒亜子 ・ 90.44点 ・ 東京スターフォックスFSC ・ ライリー・フォックス
- 子出藤絋 ・ 89.50点 ・ 蓮華茶FSC ・ 亀金谷澄覚 ・ (蛇崩 遊大,伊文里青紫 ,家森朝緑)
- 小雀白花 ・N/A・ やまびこFSCコーチ ・ 日瀧常
- 大蜘蛛蘭 ・N/A・ 福岡パークFSC ・ 布袋野蕨一 ・ (布袋野兎太)
- 鉱森神楽 ・N/A
- 蝉丸ひまり ・ 86.00点 ・ 荒川グローGSC ・ 蜻堂緋沙子
- 百瀬繭香 ・ N/A
- 雨宮蛍 ・N/A
- 浅利伽奈 ・N/A
- 子出藤環 ・ N/A ・ 蓮華茶FSC ・ 亀金谷澄覚 ・ (蛇崩 遊大,伊文里青紫 ,家森朝緑)
- 結束いのり ・81.20点 ・ ルクス東山 ・ 明浦路司 ・(高峰 瞳 )
- 八木夕凪 ・ 80.02点 ・ 名港ウインドFSC ・ 鴗鳥慎一郎 ・(雉多輝也)
- 大和絵馬 ・ 80.01点 ・ 蓮華茶FSC ・ 蛇崩 遊大 ・ (亀金谷澄覚,伊文里青紫 ,家森朝緑) ・*予選落ち
- 九猪桃子 ・ 78.20点 ・ 仙台スクエアFSC ・ 西まみ郡志
- 美波鮎 ・N/A
【その他の出場選手】
- 炉場愛花 ・ 72.62点 ・ 愛西ライドFSC ・ 五里誠二 ・ (王仁敦士)
- 古部多まいん ・ 71.220点 ・ 名城クラウンFSC ・ 竜宮アキラ ・ (千羽倫太郎)
- 申川りんな ・ 70.04点 ・ 名港ウインドFSC ・ 鴗鳥慎一郎 ・(雉多輝也)
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